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大阪地方裁判所 平成12年(わ)2141号 判決 2000年8月09日

主文

被告法人株式会社A野を罰金四〇万円に、被告人A子を罰金四〇万円にいずれも処する。

被告人A子においてその罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告法人株式会社A野は、大阪市北区《番地省略》に本店を置き、行政広報誌等の雑誌の編集業等を営む事業者、被告人A子は、同社の代表取締役として、同社の業務全般、同社で雇用する労働者の賃金等の支払い及び労働者の労務管理等を統括掌理するもので労働基準法上の使用者に当たる者であるが、被告人A子は、同社本店事務所において、同社の業務に関し、

第一  法定の除外事由がないのに、平成九年二月六日ころ、常時使用する労働者B子を雇い入れる際、同人に対し、医師による健康診断を行わず、もって、労働省令の定める医師による健康診断を行わなかった

第二  法定の除外事由がないのに

一  常時使用する労働者C子に対し、平成八年四月一七日ころから平成一〇年三月三〇日ころまでの間、一年ごとに一回、定期に医師による健康診断を行わず

二  常時使用する前記労働者B子に対し、平成九年二月六日ころから平成一〇年一二月八日ころまでの間、一年ごとに一回、定期に医師による健康診断を行わず

もって、それぞれ労働省令の定める医師による健康診断を行わなかった

第三  法定の除外事由がないのに、平成一〇年一月五日ころから同年三月二七日ころまでの間、別紙時間外労働時間一覧表記載のとおり、前記労働者B子に対し、一週間の各日につき、一日八時間を超えて計四八回にわたり、合計一五八時間三一分の時間外労働をさせた

第四  平成一〇年一月五日ころから同年三月二七日ころまでの間、別紙不払割増賃金一覧表記載のとおり、前記労働者B子に対し、時間外労働、休日労働及び午後一〇時から翌午前五時までの深夜労働をさせたことにより、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ命令で定める率である二割五分以上の率で計算した割増賃金合計三四万二〇五三円をそれぞれの所定支払期日に支払わなかった

ものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告法人株式会社A野の判示第一の所為は、労働安全衛生法一二二条、一二〇条一号、六六条一項、労働安全衛生規則四三条に、判示第二の一及び二の各所為は、いずれも労働安全衛生法一二二条、一二〇条一号、六六条一項、労働安全衛生規則四四条一項に、判示第三の所為は各月毎に労働基準法一二一条一項、一一九条一号、三二条二項に、判示第四の所為は各月毎に、同法一二一条一項、一一九条一号、三七条三項、平成一〇年法律第一一二号による改正前の同法三七条一項、平成一一年政令第一六号による改正前の労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令に、それぞれ該当し、被告人A子の判示第一の所為は、労働安全衛生法一二二条、一二〇条一号、六六条一項、労働安全衛生規則四三条に、判示第二の一及び二の各所為は、いずれも労働安全衛生法一二二条、一二〇条一号、六六条一項、労働安全衛生規則四四条一項に、判示第三の所為は各月毎に労働基準法一一九条一号、三二条二項に、判示第四の所為は各月毎に、同法一一九条一号、三七条三項、平成一〇年法律第一一二号による改正前の同法三七条一項、平成一一年政令第一六号による改正前の労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令に、それぞれ該当するところ、被告人A子の判示第三及び第四の罪については、各所定刑中罰金刑をいずれも選択し、被告法人株式会社A野及び被告人A子の以上の罪はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、いずれの被告人についても同法四八条二項により各罪所定の罰金を合算し、その合算額の範囲内で被告法人株式会社A野及び被告人A子をいずれも罰金四〇万円に処し、被告人A子については右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、行政広報誌等の雑誌の編集業等を営む被告法人株式会社A野とその代表者である被告人A子の労働安全衛生法違反及び労働基準法違反の事件であるが、被告人A子は被告法人株式会社A野の業務に関して、その使用する従業員の数が少ないことから、不規則な勤務形態をとる業務であることを知りながら、特定の病院などと提携するなどして、従業員の健康診断を法律どおり実施できる体制を確立せず、その結果主として平成九年における雇入時の健康診断及び定期健康診断を実施せず、常時使用する労働者の健康管理に必要な基礎資料を得るために法律で定められた必要な健康診断をしなかったものであり、事業者としての基本的な業務を怠った点において問題があり、また、独自の経営理念に基づき労働基準法に定める手続を履行しないまま、就業時間についてはフレックスタイム制度を、給与については年俸制度をとっているとして、時間外労働や休日労働について特段の配慮をせず、割増賃金を支払わなかったものであり、その結果八二日間、総計で一五八時間三一分の時間外労働をB子にさせ、割増賃金三四万二〇五三円を支払わなかったもので、使用者としての所要の手続をとらず、違法な状況を続けてきたものであり、未熟な者は時間を多く使うことからそのような者が残業をしても割増賃金を支払わなくても良いかのように主張するに至っては労働関係法規を守らなかったことに対する真の反省があるのかどうかに疑問を感じざるを得ない面があるなど、被告人の刑事責任は軽視できないものであると認められる。

一方、判示第一及び第二の罪に関しては、会社設立後継続して健康診断を怠ってきたというものではなく、時期は固定していないもののほぼ毎年いずれかの時期に健康診断はしてきたものであり、平成八年四月に実施した定期健康診断の結果に不合理な点があり、病院を代えようとしたが適切な医療機関が見つからないまま日時を経過させてしまったものであり、このことは健康診断をしなかったことを合理化する理由にはならないものの、健康診断を怠るについてそれなりに理由がなかったわけではないこと、判示第三及び第四の罪に関しては、労働者の過半数を代表する者との協定を結ぶなど所要の手続をとらない限りフレックスタイム制度を導入したなどということは到底言えないものの、従業員に対し勤務時間中の時間を仕事に関連することにではあるが自由に使える余地を与えるなどの配慮を被告人A子なりにしていたことや、時間外労働時間に対する割増賃金には及ばないものの、年二回の昇給をさせるなどの配慮をしていたことなどの事情も認められる。

以上の本件をめぐる一切の情状を総合し、各違反行為に見合う罰金額を算定し、それを合算した上で併合の利益を加味して考えると、検察官求刑どおり、被告法人株式会社A野及び被告人A子をいずれも罰金四〇万円に処するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

求刑 被告法人株式会社A野 罰金四〇万円

被告人A子 罰金四〇万円

(裁判官 上垣猛)

<以下省略>

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